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天然は安全?

更新日:2023年1月31日

~生兵法は大ケガのもと~



 こんにちは。秋が近付いてきましたが、多少の残暑も感じますね。食中毒にはまだまだ注意しないといけません。特に台風の影響で蒸し暑い日もあり、日中に食品を放置するとバイキンがスクスク育つので、要警戒です。


 さて食中毒と聞くと、大腸菌O157とかサルモネラとか、最近はアニサキスとか、いろいろな名前を聞くと思います。この時期、ニュースサイトでは専門家の方々が「一晩寝かせたカレーを作り置きするとウェルシュ菌が危ない」とか「おむすびは黄色ブドウ球菌が危ない」「新鮮な鳥刺しはカンピロバクターが危ない」なんて記事をたくさん寄稿していますね。


 まれに食中毒で死亡事故が報じられることもあります。世間を揺るがした死亡事故としては、1996年にカイワレ大根で腸管出血性大腸菌O157や、2011年にユッケで腸管出血性大腸菌O111、という名前の微生物を原因とする食中毒が起きています。2012年には小学校の給食で食物アレルギーによる死亡事故も起きています。それにしても“腸管出血性”って、名前からして怖いですよね。


 では毎年、最も死亡者が出ている食中毒は何でしょう? 大腸菌でしょうか、アニサキスでしょうか? 「食の安全・安心」という話題になると、「食品添加物や遺伝子組換え食品が怖い」といった声もあるので、そういったものでしょうか?


 正解は、専門用語でいうと「動物性自然毒」「植物性自然毒」です。


要するに、毒を持つキノコや山菜、フグとかです。



 例えば、自分で釣ったフグをさばいて、きちんと毒のある部位を除去していなかった、というパターンです(フグの調理には資格が必要なのは皆さんご存知かと思います)。


 あるいは、時々「スーパーで買ったチリメンやシラス干しにフグの稚魚が混入していた」といったニュースが出ます。稚魚ならまだ毒が蓄積していないので、食べても大丈夫な場合もありますが、「見つけたら食べない」というのが最も大事な対策です。チリメンやシラス干しは食品メーカーが機械で異物除去している場合もあるので、そういう商品は安心ですね。


 「スーパーで売っていたアジのパックにフグの稚魚が混入していた」なんてニュースもあります。ネットで写真を探してみてください。素人の目では区別はつかないと思います(少なくとも筆者は見分けられないと思います)。これも怖いニュースではありますね。


 もっと難しいのは、植物が毒を持つ場合です。農林水産省のウェブサイトに「××と間違えやすい有毒植物」をまとめてありましたが、見分けは難しいと思います。


大方のバイキンは加熱すればやっつけられますし、最近話題のアニサキスは、加熱するか凍らせればやっつけられます。


 でも、植物の毒は、ほとんどが煮ても焼いても食べられません。


専門知識をお持ちでしたら毒アリか毒ナシか見分けがつくでしょうけど、そうでない場合は「君子危うきに近寄らず」。避けるのが一番確実ですね。


「生兵法は大ケガのもと」と言います。ケガで済むなら治せますが、命を落としてはね……と感じてしまいます。


 以下は農林水産省が注意喚起している「間違えやすい有害植物」の例です。


【ニラと間違えやすい有毒植物】

スイセン、スノーフレーク(スズランスイセン)、キツネノカミソリ、ゼフィランサス(タマスダレ)など 


【ギョウジャニンニクと間違えやすい有毒植物】

コルチカム(イヌサフラン)、スズラン、バイケイソウ類など


【ギボウシ類と間違えやすい有毒植物】

バイケイソウ類、コルチカム(イヌサフラン)、ヒメザゼンソウなど


【ふきのとうと間違えやすい有毒植物】

ハシリドコロ、フクジュソウ(福寿草)など


 よく「天然の食品は安全」というフレーズを耳にします。でも全ての天然食品が安全であるとは限りません。


 食品の成分などを研究している科学者は「天然の食品は未解明な部分が多い」と考えています。今でも「○○という食品には、××という効果があった!」なんてニュースがありますよね。つまり、天然の食品とは、まだまだ専門家でも知らないことがたくさんあるのです。その「まだ知らないこと」は、必ずしもグッドニュースばかりではないかもしれません。


 「天然食品だから安全」というのは、正確には「天然食品(は人類が長いこと食べ続けて安全なん)だから、安全(とみなしても大丈夫でしょ?)」ということです。


これを専門用語では「長い食経験」と言います。


 天然食品に対する不安を煽るつもりはありません。そんなことをしたら、筆者自身も食べる物がなくなってしまいます(苦笑)。人類の歴史は「食べられない物を、食べられるようにしてきた歴史」でもあります。そのままでは食べられない物を、煮たり焼いたり、砕いたり潰したりして食べられるようにしたのが、人類の叡智(えいち)というモノですね。


 少なくとも過去の歴史の積み重ねのおかげで、私たちは食品のリスクを回避して、安全(と思われる)食品を食べることができているのです。京都・龍安寺に刻まれている「吾唯足知」(われ、ただ足るを知る)の精神で、過去に感謝して、心穏やかに「いただきます」と「ごちそうさま」をしたいものです。


 最後に「食」にまつわる余談を一つ。


 著者はよく「『食』という字は『人を良くする』と書きます。食事は楽しく、幸せなものであるべきです」と話しています。


 食育的には“それっぽい説明”だと思いますが、本来は「食」の字に含まれている「良」は食器に穀物を盛った様子を表す象形文字、「人」はそれにかぶさったフタを表す象形文字です。


「食」は「人」と「良」という2つの象形文字を組み合わせた会意文字です。


 余談ついでに。「苗字由来net」というウェブサイトによると、「食」の字が入る苗字は珍しくないようです。全国に約240人の和食(わじき)さん、約20人の食堂(じきどう)さん、約20人の生食(いけじき、いぐい)さん、約10人の食図(くわず)さん、といった苗字の方がいらっしゃるそうです。「食」の字を含む苗字の皆さんは、きっと「良」い「人」なのだと思います。


 ちなみに筆者の苗字は「せんべろ」の聖地と同じです(せんべろ=1000円で泥酔できる居酒屋)。「名は体を表す」とは、よく言ったものだと笑ってしまいました。


それでは今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。



(参考)



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